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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)2146号 判決 1978年6月22日

原告 田中金三

被告 高根實

主文

被告は原告に対し、別紙物件目録第一記載の建物につき、東京法務局板橋出張所昭和四八年一一月一〇日受付第六四八七三号抵当権設定登記、同日受付第六四八七四号条件付所有権移転仮登記、同日受付第六四八七五号停止条件付賃借権設定仮登記及び同出張所昭和五〇年一二月八日受付第五五五七三号抵当権設定登記の、同目録第二記載の建物につき、同出張所昭和四九年三月二九日受付第一四〇七〇号抵当権設定登記、同日受付第一四〇七一号停止条件付所有権移転仮登記、同日受付第一四〇七二号停止条件付賃借権設定仮登記及び同出張所昭和五〇年一二月八日受付第五五五七三号抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。

被告は原告に対し、三〇二万九一七九円及びこれに対する昭和五一年三月二五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告が七五万円の担保を立てたときは、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  主文第一項同旨

2  被告は原告に対し、三二〇万九一一六円及びこれに対する昭和五〇年一〇月二八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第二項につき仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、訴外田中豊と連帯して、昭和四八年一〇月二六日被告から六〇〇万円を左記約定のもとに借受ける旨の消費貸借契約を締結し、利息三六万円を天引きされて五六四万円を受領し、右契約上の債務を担保するため、原告所有の別紙物件目録第一記載の建物(以下「第一物件」という。)につき抵当権を設定して、東京法務局板橋出張所同年一一月一〇日受付第六四八七三号をもつて抵当権設定登記を経由すると共に、同出張所同日受付第六四八七四号をもつて条件付所有権移転仮登記、同日受付第六四八七五号をもつて停止条件付賃借権設定仮登記をそれぞれ経由した。

(1)  弁済期 昭和五一年一〇月二五日

(2)  利息 月六分

(3)  遅延損害金 定めず

2  原告は、訴外田中豊と連帯して、昭和四九年二月二八日被告から六〇〇万円を左記約定のもとに借受ける旨の消費貸借契約を締結し、利息三六万円を天引きされて五六四万円を受領し、右契約上の債務を担保するため、原告所有の別紙物件目録第二記載の建物(以下「第二物件」という。)につき抵当権を設定して、同出張所昭和四九年三月二九日受付第一四〇七〇号をもつて抵当権設定登記を経由すると共に、同出張所同日受付第一四〇七一号をもつて停止条件付所有権移転仮登記、同日受付第一四〇七二号をもつて停止条件付賃借権設定仮登記をそれぞれ経由した。

(1)  弁済期 昭和五二年二月二七日

(2)  利息 月六分

(3)  遅延損害金 定めず

3  原告は、訴外田中豊と連帯して、昭和五〇年一一月一七日被告から七七万円を弁済期同年一二月一二日の約定で借受ける旨の消費貸借契約を締結し、右契約上の債務を担保するため、第一物件及び第二物件を共同担保として抵当権を設定し、同出張所同年一二月八日受付第五五五七三号をもつて抵当権設定登記を経由した。

4  被告は、同年一一月一七日原告に対し、右七七万円から利息として四万五〇〇〇円を天引きした残金七二万五〇〇〇円中七二万円を、前記1、2合計一二〇〇万円の貸金の利息に充当する旨の意思表示をした。

5  原告は被告に対し、前記1、2の合計一二〇〇万円の貸金の利息として、天引利息及び前項の利息充当分を含めて、別紙計算書(一)のとおりの支払をした。

しかして、右支払利息中利息制限法所定の制限利息を超過する分を元本に充当すると、右計算書のとおり右一二〇〇万円の貸金債務は既に元利とも完済となり、かえつて三九三万四一一六円が過払いとなつている。

6  原告は被告に対し、昭和五三年四月六日の本件第一四回口頭弁論期日において、右三九三万四一一六円の不当利得返還請求権を自働債権前記3、4の七二万五〇〇〇円の貸金債権を受働債権として、その対等額において相殺する旨の意思表示をした。

7  してみると、第一物件及び第二物件についてなされた前記各登記に係る権利は、いずれも被担保債権の消滅によりその効力を失うに至つたので、被告は原告に対し右各登記の抹消登記手続をなすべき義務がある。

よつて、原告は被告に対し、右各抹消登記手続を求めると共に、不当利得返還請求として、前記相殺後の三二〇万九一一六円及びこれに対する昭和五〇年一〇月二八日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による利息金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1、2のうち、2の貸付日、各利息天引の事実及び弁済期、利息、遅延損害金の点は否認し、その余の事実はすべて認める。2の貸付日は昭和四九年三月五日であり、1、2とも、弁済期向う三か月、利息年一割五分、遅延損害金日歩八銭二厘の定めで貸付けたが、弁済期経過後も、差入れ手形の書替えにより昭和五〇年一一月二六日まで三か月ごとの延期を繰返してきたものである。

2  同3の事実は認める。

3  同4のうち、被告が原告に対し、七二万円を一二〇〇万円の貸金の利息に充当する旨の意思表示をした事実は認めるが、その余の事実は否認する。

4  同5の事実は否認する。同7は争う。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1、2の事実は、各利息天引の事実及び弁済期、利息、遅延損害金の点並びに2の貸付日の点を除き、当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない乙第七号証の一、二(領収書、請求書)、証人田中豊の証言により真正に成立したものと認める甲第三号証(支払利息台帳)及び被告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によれば、右2の貸付日は昭和四九年二月二八日であることが認められ、右甲第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第六号証、証人田中豊の証言及び弁論の全趣旨によれば、右1、2の貸付金とも、利息月六分、弁済期日及び遅延損害金は特に定めず、一か月ごとに利息を前払いして差入れ手形の書替えをするとの約であり、各貸付日に一か月分の利息それぞれ三六万円が天引きされて、原告の手取額はそれぞれ五六四万円であつたことが認められる。被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、成立に争いのない甲第一、二号証(各登記簿謄本。乙第六号証、同第一〇号証も同様。)の記載も右認定を覆すに十分でなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  次に、請求原因3の事実及び被告が右貸付金七七万円中七二万円の交付に代えてこれを請求原因1、2の合計一二〇〇万円の貸金の利息に充当する旨の意思表示をした事実は、いずれも当事者間に争いがない。

そして、前記甲第三号証、成立に争いのない乙第一、二号証の各一ないし三、証人田中豊の証言及び弁論の全趣旨によれば、右七七万円の貸付に際し、貸付日である昭和五〇年一一月一七日から同年一二月一二日までの利息として四万五〇〇〇円が天引きされたこと及び遅延損害金の定めは特になかつたことが認められる。被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、前記甲第一、二号証(乙第六号証、第一〇号証)の記載も右認定を覆すに十分でなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  前記甲第三号証及び証人田中豊の証言によれば、原告は、請求原因1、2の借入金について、前記各三六万円の利息天引分及び前項の昭和五〇年一一月一七日の七二万円の利息充当分を含めて、別紙計算書(二)記載のとおり、前後二七回にわたり合計一七二八万円の利息を被告に支払つたことが認められる。被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかして、右各利息が前記のような月六分の利息約定に基づいて支払われたものであることは明らかであり、右利息約定が利息制限法に違反することも明白である。そこで、右各天引利息について同法二条による計算をし、かつ、その余の各支払利息中同法所定の制限をこえる部分は、民法四九一条により残存元本に充当されるものと解されるので(最判昭和三九・一一・一八民集一八・九・一八六八等参照)、その充当計算をすると、右計算書のとおり、右合計一二〇〇万円の貸金は昭和五〇年六月二七日元利とも完済されたことになり、それ以後に利息として支払われた合計三七六万三四七五円は過払いとなつていることが明らかである。

そうとすれば、原告の被告に対する右借入金債務を担保するために第一物件及び第二物件に設定された前記各抵当権及び各仮登記上の権利は、いずれも被担保債権の消滅によつて消滅に帰したというべきであるから、被告は原告に対し、各抵当権設定登記及び各仮登記の抹消登記手続をなすべき義務があると共に、前記過払いに係る三七六万三四七五円を不当利得として返還すべき義務がある(最判昭和四四・一一・二五民集二三・一一・二一三七参照)。

しかして、本件全証拠によつても、被告が昭和五〇年六月二七日以降の利息受領時において利息が過払いとなつている事実を知つていたものと認めることはできないから、前記過払分に同年一〇月二八日以降年五分の割合による法定利息を付加して支払うべきであるとの原告の主張は理由がないが、被告は、右過払分について不当利得の返還を求める本件訴訟の係属の時以降、右利得が法律上の原因を欠くことについて悪意となつたものとみなすのが相当である(民法一八九条二項の趣旨の類推)から、本件訴状が被告に送達された日であることが記録上明らかな昭和五一年三月二五日以降完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による法定利息を付加して支払う義務があるというべきである。

四  ところで、請求原因3の七七万円の貸金について、貸付日である昭和五〇年一一月一七日から同年一二月一二日までの利息として四万五〇〇〇円が天引きされたことは前記認定のとおりであるが、右利息が利息制限法の制限をこえるものであることは計数上明らかであるから、これについて同法二条による計算をすると、右期間の利息として被告が有効に受領できる金額は九二九六円(円未満四捨五入)であり、四万五〇〇〇円との差額三万五七〇四円は元本に充当したものとみなされるので、残元本額は七三万四二九六円となる。

五  しかして、原告が被告に対し、昭和五三年四月六日の本件第一四回口頭弁論期日において、原告の被告に対する前記過払利息の不当利得返還請求権を自働債権とし、被告の原告に対する右貸金債権を受働債権として、その対等額において相殺する旨の意思表示をしたことは本訴訟上明らかであり、右相殺の効果は両債権が相殺適状に達したものと認められる昭和五〇年一二月一三日にさかのぼつて生じたものというべきである。

そうとすれば、右相殺の結果、被告の原告に対する右貸金債権は全部消滅したことになり、したがつて、右貸金債権を担保するため第一物件及び第二物件に設定された前記抵当権は、被担保債権の消滅に帰したものというべきであるから、被告は原告に対し右抵当権設定登記の抹消登記手続をなすべき義務がある。

また、原告の被告に対する不当利得返還請求権は、右相殺の結果、三〇二万九一七九円が残存することになるから、被告は原告に対し、右三〇二万九一七九円とこれに対する昭和五一年三月二五日以降完済に至るまで年五分の割合による利息金を支払う義務がある。

六  以上の次第で、原告の被告に対する本訴請求中、第一物件及び第二物件について前記各登記(仮登記を含む。)の各抹消登記手続を求める部分は全部理由があり、金員の支払を求める部分は、右の限度で理由があるが、その余は失当として棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 魚住庸夫)

(別紙)物件目録

(別紙)計算書 (一)(二)<省略>

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